とあるところに、変な口癖の動物達が住む、どこか懐かしい森がありました。ところが最近、その森の木々のようすが少し変です。どうも全体的に元気がありません。ひつじは、去年の今ごろは咲いていた赤い花が見つからないことを、少し残念に感じていました。
動物たちはみんなで「なんでだろう? どうしたらいいだろう?」と話し合っていました。
みんなが思い思いの意見を一通り出し合いましたが、答えは出ません。
「確か……『エコ』でよくなるって聞いたことがあるモカ」
ふと思いついたひつじが、モコモコの毛をうれしそうにふくらませて言いました。
「そうブガか!? で、『エコ』って何ブガ? 秘密の合言葉ブガか?」
初めて聞く『エコ』という言葉に、ライオンは興味津々。大きな口をモグモグさせながらひつじを見つめます。
「えっと、実は詳しく知らないモカ……」
しょんぼりとするひつじの横で、パンダがまん丸の目をくるりと回して言いました。
「そんなときは、長老に聞けばいいマナ♪」
それを聞いた仲間はうれしくなりました。
おとうさんのおじいさんの、そのまたおじいさんの生まれるず~っと前から、この静かな森で生きている森の大木は、頼りがいのある長老です。物知りの彼ならなんでも知っているはず。
集まっていたひつじとライオン、パンダにペンギン、そしてゾウは、いっせいに長老の住む森の奥へと歩き出しました。
モコモコ、モグモグ、ペッタン、ズッドン、くるりんくるりんと――
「おぉ、どうしたんじゃ?みんなそろってからに」
早足で歩いてくるみんなを出迎えた長老は、不思議そうに聞きまし
た。白くて長いツタのひげを、くるくるくるくると四方八方に巻き上げながら、ひとりひとりの顔をのぞき込みます。
「最近、森が元気ないけど、長老は気づいているモカか?」
ひつじが、ドキドキしながら聞きました。
「う~む。そうか。お前たちは気づいておったか」
みんなの気持ちを落ち着かせようと、長老は静かな声で続けます。
「じゃがの、鳥や風たちに聞くと、どうやら『森だけ』のことではないようじゃのう」
それを聞いたペンギンが、くちばしをきゅっと持ち上げて言いました。
「そういえば、前に住んでた海も少し元気がなかった気がするプキ」
「この前、川で水浴びしたときちょっと変な感じがしたズド」
ゾウが足を踏み鳴らして応えます。
「そうじゃ。みんなの住んでおる場所全体が、少し元気を失っているようじゃのう」
不安そうな表情になったみんなを励まそうと、ひつじが元気な声で聞きました。
「それで、こういう時は『エコ』がいいって本当モカか?」
「おぉ、それをどこで聞いたんじゃ? お前はなかなか物知りじゃな。確かにそれがよいと、ワシも聞いておる」
ひげを大きくひと巻きすると、長老は頼もしそうに目を細めました。
「へへ。やっぱりそうなんだモカ。じゃぁ、どうすれば『エコ』できるモカか?」
「まぁ、そうあせるな。『エコ』というのは、最近の人間界で流行っていることのようじゃから、ワシも詳しいことはわからんのじゃ……。だから、そうじゃのう……ならば人間のところに行って、教えてもらうというのがいいかもしれん」
「えっ、人間? 人間は怖いブガ」
目を丸くしたライオンがすかさず言いました。他の動物も同じ意見のようです。
ひつじも考えました。
「人間モカかぁ。怖いモカね……でも、行かないと森はこのまま……赤いお花も見つからないモカ」
少しの沈黙の後、ひつじは長老の方をしっかり向いて耳をピンと立てました。
「うん、わかったモカ。行ってみるモカ」
ひつじの体中の毛が、緊張のあまりモキュッと引き締まっているようすを見て、周りのみんなは心配そうに顔を見合わせました。一方長老は、枝についた葉という葉をさわさわさわさわと、感動でゆらしています。
「そうか。お前はみかけによらず勇気があるのう。 行ってくれるのか」
「モカ! だって、人間は最近『エコ』を始めたモカよね? だったら、人間も森を元気にさせたいってことだと思うモカ」
(あっ、そうか…)他の動物たちの表情が少し変わりました。
「うむ。よく気がついた。ワシもそう思うのじゃ。きっと人間とはいいパートナーになれるじゃろう」
「パートナー……」
ひつじの毛が、希望ですこうしだけ膨らみました。
長老は自慢のひげを背中にあるくぼみの中にひょいと差し入れました。くぼみの中で休んでいた鳥が「チチッ」と鳴き、飛び立ちました。
「おお、これは失礼。すまんかったのう」
長老は鳥に謝ると、何かを大事そうに取り出しました。
「では、このボトルを持っていきなさい。『エコ』で『森のしずく』がたまるという『夢のボトル』じゃ。ずいぶん前に、あの鳥たちがくれたのだ。こういうときのために、とっておいてよかった」
ボトルを受け取ったひつじは、しばらく好奇心に満ちたまなざしで見つめ「モカ。しずくがたまったら戻ってくるモカ」と言いました。
「『森のしずく』はきっと、森の木を育てる栄養になる。そうじゃ、見事に育てあげたら、『ごほうび』をやろう」
「本当モカか? やった♪ がんばるモカ!」
「え!? ご、ごほうび! ほ、欲しいプキ」
モッコモコに毛を膨らませて喜ぶひつじを見て、他のみんなもちょっとうらやましそう。
「そうじゃ、そうじゃ。ほれ、『夢のボトル』はまだあるぞ。みんなはどうするんじゃ?」
長老は、いたずらっぽくひげを巻きました。
「森に戻ってきたら、『エコ』のことや人間のことを話そうモカ」
「ブガ。そうしようブガ」
『ごほうび』の効果か、ライオンもその気になってきたみたいです。
「よし、行ってみるモカ」
旅立つ『モカ』が口癖のひつじの名は「ウェア」。
ウェアはモコモコと毛をゆらして、人間の住む街へと軽い足取りで歩き始めました。
最近のコメント