信じること
部屋を出たはなちゃん。夕暮れどきの街を歩きながらウェアのことを考えていました。
「ひどいこと言っちゃったかな……」
「あの子は何も悪くないのに」
「友達とはけんかするし、好きな人には冷たくされるしで、私が勝手にイライラしてただけ……」
「悪いことしたな……謝らなくちゃ」
外の空気を吸って少し落ち着いたはなちゃんは、そう思うとくるりと後ろを向き、いま来た道をさっきまでより少し早足で引き返しました。
いつのまにか日もほとんど落ち、電気がついていない部屋は真っ暗です。
はなちゃんがリビングの扉を開けると、ウェアは体を小さくして眠っていました。
はなちゃんはウェアにそっと手を添え、抱え起こしました。よく見るとウェアの顔には涙の跡があります。しっかりと握りしめたボトルの中に、しずくはありません。
「あっ……はなちゃん……帰ってきてくれたモカか?」
「あたり前じゃない」
安心したウェアの目には、また涙があふれてきました。
「ゴミも分別したモカ……、お花にも水をあげたし、電気も消したモカ……はなちゃんが教えてくれた『エコ』は、全部、全部やってみたモカ……」
「そう。あなたはがんばりやさんね」
「でも、でも、しずくがたまらないモカ……。『エコ』が変わったモカか? だったら、新しい『エコ』を教えて欲しいモカ。あとひとしずくで森に最初の木が育つモカ。みんなも待ってるモカ」
「『エコ』が変わった……、新しい『エコ』……、そんなことがあるのかしら……」はなちゃんはしばらく考えました。
(『エコ』ってなんだろう…、昨日までと変わっていたもの……)
「あっ……」
はなちゃんの口元が小さく開きました。
「ねぇ、ウェア、ちょっと見せてごらん」
はなちゃんの手が、ボトルを握りしめたウェアの手を優しく包み込みました。はなちゃんの手の温もりがウェアの手に伝わります。
「ウェアの森が元気になりますように……、ウェアの森が元気になりますように……」
いつもの優しい声にウェアの顔が輝きました。その顔にはもう涙はありません。
「モカ! 森が元気になりますように……。ごほうびももらえますように……」
ふたりは心をあわせて祈りました。そうすると……
「ぴちょん」
待ち望んでいた幸せの音が部屋に響きました。心なしかいつもより大きな音に聞こえました。
「やったね、ウェア!」
「モカ! やったモカ! ついにやったモカ!」
はなちゃんはウェアをしっかりと抱きしめモコモコの毛の中に頬を埋めました。
「よかった……」
今度は、はなちゃんの目に涙があふれます。
「モカ。はなちゃんとなら『エコ』できるって信じてたモカ」
「ありがとう。信用してくれて。ウェアは『エコ』を信じられるのね」
「ただ森を元気にしたいだけだモカ」
「そっか……。『ただ、したいだけ』か……。そういうとこ、私も見習わなくちゃいけないかもね。私は何がしたいんだったっけな……」
はなちゃんは小さいころのことや、お花屋さんに勤め始めたころのことに思いを馳せました。


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